悪意という名の街

ぷりぷり



ジャムが残した遺産は、たった6枚のスタジオ・アルバムからなり、そのすべてが多彩なエピソードに満ちた5年のあいだに立て続けにリリースされている。けれどもその衝撃は、わずか6枚のアルバムによるものとは思えないほど、とてつもなく大きかった。このトリオのサウンドの激しさはパンクに由来するが、当時めずらしいことに、ザ・フー、タムラ・モータウンジェームス・ブラウン、ザ・キンクス、ソウル、ビートルズなどから受けた音楽的影響を喜んで公言していた。これは、パンクが始まった年を紀元0年だと主張するパンク至上主義者にとっては頭の痛い言い草だった。
実際、ジャムは1977年に「In The City」「The Modern World」といったパンク・ナンバーをリリースしたが、じきにポール・ウェラーは、「Down In The Tube Station At Midnight」「Saturday's Kids」「The Eton Rifles」「Town Called Malice」といったトラックで、ソングライターとしての自分の声を見つけた。そうしたトラックは、生まれ育った郊外の町の姿を写しだし、ウェラーを英国ロック界切っての優れた観察者としてピート・タウンゼントとレイ・デイヴィスと同じ地位に並ばせた。そして彼らと同じくウェラーも、すてきなポップ・シングルをまたたくまに作りだす才能を備えていて、「Going Underground」「Start!」「Beat Surrender」といったトラックを生みだした。

本セットは願ってもない5枚組ボックスセットで、6枚のアルバムに収録された全曲はもちろん、B面曲や入手困難なシングルを含むジャムがレコーディングしたほぼ全曲がそろっている。また、同封の88ページの冊子は、すばらしいデザインと充実した解説で、ジャムのすべてのトラックとギグを祝福している。けれども、何よりうれしいのはディスク5収録の未発表トラック22曲で、デモ・テイク(「In The City」「Precious」「The Bitterest Pill」)、カヴァー曲(「Rain」「Dead End Street」「Stand By Me」)、別テイク(「A Solid Bond In Your Heart」「Billy Hunt」「That's Entertainment」)などが耳にできる。

本セットの音楽は、25年前のあの狂乱の時代を見事に回想させる。ジャムの生みだしたトラックのクオリティーと量には驚かされるばかりだ。ジャムは絶えずギグを行いながら、ウェラーが課した高いハードルをクリアするシングルとアルバムを次々と量産していたのだ。『Setting Sons』と『Sound Affects』とったアルバムは、ジャムがまさにピークに達し、悲しいことに終わりが間近いことをうかがわせる。当時のウェラーはフォークやジャズ、R&Bに傾倒し始めていた。それでも、本セットはすばらしい贈り物であり、ジャムが、セックス・ピストルズとクラッシュのあとにニュー・ウェーブが世に送った最高のバンドであることをはっきりと証明している。(